元々は食べられなかった物でも、言葉で説得されて好きになってしまうことがある。

たとえば長ネギだ。
昔は、長ネギが大嫌いだった。
すじばっていて石鹸臭くて、あんなものなんでみんな好んで食べたがるのか。
しかしテレビですき焼きの特集をやっていたとき、
ネギのすばらしさを称えるナレーションを聞いて、しびれてしまった。
噛むとぎゅっと音を立てて飛び出してくる、熱い熱い液。
口中に広がる、甘さ。
とろりとした舌触り。
大写しになったネギの映像はもちろん効果的だったが、
そのうっとりとした口調のナレーションは、ネギの美味しさのツボを伝え
私の中の長ネギ像を一変させてしまうだけの力を持っていたのである。

長ネギだけではない。
名古屋名物の味噌カツは一度も食べたことのないうちから大好物の一つだった。
向田邦子の随筆の影響である。
また、長年食べられなかった納豆が好きになったのも
友達が「納豆茶漬け」への愛を切々と語ってくれたおかげだ。
何かを本当に美味しいというとき、
その言葉は他人の味覚までも変えてしまうものなのだろう。

というわけで、これを書きながらやかんを火にかけています。
白湯を味わってみたくてたまらなくなってきたので。


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