うちの方も、ときどき豆腐を売りにくるよ。
この間、ラッパに釣られて祖父が買いに出たところ
びっくりするほど高い豆腐ばかりで呆れたそうです。
財布片手に呼び止めた手前、買わずに帰る訳にもいかず
一番安いのを買ったそうですが
「食べてみたら、そこらのスーパーで売っているのとは味が違った」
そうな。なんだかだまされているような気がしなくもありませんが、
確かにあのラッパの音には、つい呼び止めたくなる魅力があります。

季節外れですが、売りに来る歌といえばこれ。

  はつなつのゆふべひたひを光らせて保険屋が遠き死を売りにくる
                      塚本邦雄

もっとも保険屋はリヤカーなど引かないし、ましてやラッパなど吹くべくもありませんが。

ぱー。ふー。
あ、おじさん、ひとつくださーい。
はい、はい、どうぞ。どんな死も選り取りみどりでございますよ。病気に怪我、交通事故に、地震に火災。あらゆる「万一のとき」を取り揃えてございます。お好きなものをお鍋に掬ってさしあげましょう。まだまだ先のことって?いえいえ人生何があるかわかりませんよお嬢さん。もちろん、掛け金のプランもお選びいただけますよ。え、このラッパ。これはまあ、最後の審判用と洒落てみたのでございますよ。老後の心配だけでなく、これからは死後の心配も、ねえ。おほほほ。さあ、さあ、お選びください。おひとつでもおふたつでも、お好みの死を。
ぱー。ふー。

…いや、いや。
(2006年2月27日)
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